File.005「よく見れば、童顔にヒゲをはやした可愛いヤツよ」

ゴンズイの味噌煮・味噌汁・蒲焼き



著者紹介

西潟正人【にしがたまさひと】
1953年、新潟県生まれ。服飾の仕事をしながら、インドなど世界を放浪。魚好き料理好きが高じて地魚料理店「魚屋」を、神奈川県逗子市で20年間営む。東京新聞・日刊ゲンダイ・NHK出版「食彩浪漫」などにコラムを連載しながら、フジTV「ポンキッキーズ」などにもレギュラー出演。現在CS放送TV・旅チャンネル「漁師町ぶらり」にて全国を行脚中。食と笑顔をテーマに、幅広く活躍している。
主な著書
「漁師の磯料理」(徳間書店)
「魚で酒菜」(徳間文庫)
「とっておき漁師料理」(NHK出版)
「東京湾の漁師町」・「漁師直伝」・「漁師町の、うめぇモン!」「市場食堂」(生活情報センター)
など多数。


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ワカメ

この嫌われ方は、毒針のせいだけではなさそうだ。外道では済まされない招かざる客は、円い口にヒゲを立てて、正直に言えば薄気味悪い。触りたくもない。ところが一度、ゴンズイの美味しさに気付くと、この顔が愛らしくなるのだから人の感情っていい加減なものだ。昔から当たり前に食べている漁師に、食べ方を教わった。キスするように頭からしゃぶるんだぁよ、ちゅぱちゅぱやれば骨しか残んねぇ!
下ごしらえ
  • 背ビレの1本、左右の胸ビレに1対、計3本の毒針を切り取る
    ゴンズイバサミ(釣具屋で売っている)でしっかりつかんでから、声を出して数えながらハサミ(ニッパーが便利)で切る。タオルで押さえるのは危険、足で踏み押さえるのも厳禁。切り取った毒針は、必ず海に捨てること。家庭でもそのまま生ゴミに入れては危険、新聞紙などに包んでから捨てること。

  • 内蔵を出して洗う
    肛門に向けて腹を指で押すと、腸が少し出る。これをつかんで引っ張ると、長い腸は抜ける。粗塩を振ってもみ洗いしたら、ゴンズイの腹処理は完璧。胃袋は残るが、食べなければ済むこと。もしも黄色い卵巣を見つけたら、捨ててはいけない。ゴンズイの卵は、味が濃くて珍味中の珍味である。
ゴンズイの下ごしらえとは、要するに3本の毒針を切り取ることである。釣り人ならば現場で済ませてから持ち帰りたい。数ある場合は、切除し忘れが発生するので注意! 
仕上げ
    味噌煮:予めカボチャを柔らかく煮ておき、味噌汁を作る要領でゴンズイを煮る

    味噌煮
    ゴンズイは味噌と相性がよく、またカボチャともよく合う。ゴンズイは身崩れしやすいから、丸ごと姿のままで煮たい。カボチャの甘味が味噌に混ざって、ゴンズイのタンパク質に絡む。ヒゲ面とキスをするように頭をしゃぶれば、なるほどゴンズイは面の皮が旨い。

    味噌汁:ゴンズイは、水から煮る。煮立つ寸前に火を弱め、出汁を取るようにしばらく煮てから味噌を溶き入れる。椀に盛ったらネギを散らす。尾ビレの際で、中骨だけを切り落とす
    味噌汁では、ゴンズイを半分に切ってもいいだろう。具が欲しければ、やはりカボチャやジャガイモなどがよく合う。だが味噌汁は、ゴンズイだけが基本だ。
    蒲焼き:丸のままでも、開いてもいい。ウナギを焼くような甘辛いタレを付けながら、ゆっくりと焼く。タレは醤油と味醂の等分を煮詰める

    蒲焼き
    味噌煮とは違った、ゴンズイ本来の味が楽しめる。意外や真っ白い身はクセがなく、もう少し身肉があればと、惜しまれるほど上品にして美味。
すべての魚料理に共通する基本は、化学調味料を使わないこと。「出汁入り味噌」などはもってのほかで、魚本来の味が消えてしまう。美味しいと感じても、それはゴンズイの味ではない。ゴンズイ料理は、ゴンズイを味合わなくてはならない。入門にはまず、キスの洗礼を受けることか。

地獄の獄卒に、牛頭(ごず)人身があり。鬼神のような悪魚として牛頭の名をもらい、ゴンズイになったと言う。三浦半島の漁師町、佐島ではゴンズリ。三重県ではゴズ、ゴズイオとも。

夜行性で夜釣りの外道としてうるさく掛かるが、曇天ならば磯でも内湾でもおかまいなし。心ない釣り人が釣り尽くそうとして諦めたのか、堤防に残骸を放りっぱなしで帰ってしまうことがある。毒針は魚が死んでも危険であり、乾燥してゴミのようになると間違って踏むこともある。ゴンズイの棘は、よく観察すればわかる。柔らかい皮に包まれているが、針先は目を凝らすほど細く鋭い。そして根本までとなると、けっこう長い。硬くて鋭い、長いとあっては長靴の底を突き抜けるのも容易なことだ。サンダル履きの子供が踏んだらどうだろう、想像しただけで可愛そうじゃないか。病院へ行ったとしても、その夜は痛さで眠れない。

だが、ゴンズイが悪いのではない。世の中にゴンズイを嫌わしめたのは、釣り人である。千葉県の内房では、漁師に限らずゴンズイを好んで食べている。町の魚屋にだって、堂々と並んでいるのだ。しかも毒針が付いたまま……。

本場の食べ方を紹介したい。彼らはゴンズイを1匹や2匹で料理しない。バケツで買ってきて、大鍋で煮るのだ。30匹くらいをバケツに入れて棒でかき混ぜて洗い、カボチャを入れた味噌煮にする。内臓? 取らない。毒針? 取らない! 毒は煮えると消え去るようで、棘が刺さらないように、うまく頭をせせるのである。ゴンズイの一番旨いところは、なんとヒゲが付いた唇なんだそうな。キスをするようにとは、なるほど納得。ゴンズイを煮たとわかると、隣近所はお裾分けを待ちわびるほどだ。

こういう町に、ゴンズイをバカにする人はいない。釣り人が堤防に投げ捨てたら、バカなよそ者として相手にしない。素晴らしい漁師町である。