この嫌われ方は、毒針のせいだけではなさそうだ。外道では済まされない招かざる客は、円い口にヒゲを立てて、正直に言えば薄気味悪い。触りたくもない。ところが一度、ゴンズイの美味しさに気付くと、この顔が愛らしくなるのだから人の感情っていい加減なものだ。昔から当たり前に食べている漁師に、食べ方を教わった。キスするように頭からしゃぶるんだぁよ、ちゅぱちゅぱやれば骨しか残んねぇ!
- 背ビレの1本、左右の胸ビレに1対、計3本の毒針を切り取る
ゴンズイバサミ(釣具屋で売っている)でしっかりつかんでから、声を出して数えながらハサミ(ニッパーが便利)で切る。タオルで押さえるのは危険、足で踏み押さえるのも厳禁。切り取った毒針は、必ず海に捨てること。家庭でもそのまま生ゴミに入れては危険、新聞紙などに包んでから捨てること。
- 内蔵を出して洗う
肛門に向けて腹を指で押すと、腸が少し出る。これをつかんで引っ張ると、長い腸は抜ける。粗塩を振ってもみ洗いしたら、ゴンズイの腹処理は完璧。胃袋は残るが、食べなければ済むこと。もしも黄色い卵巣を見つけたら、捨ててはいけない。ゴンズイの卵は、味が濃くて珍味中の珍味である。
アドバイス
ゴンズイの下ごしらえとは、要するに3本の毒針を切り取ることである。釣り人ならば現場で済ませてから持ち帰りたい。数ある場合は、切除し忘れが発生するので注意!
味噌煮:予めカボチャを柔らかく煮ておき、味噌汁を作る要領でゴンズイを煮る

味噌煮
ゴンズイは味噌と相性がよく、またカボチャともよく合う。ゴンズイは身崩れしやすいから、丸ごと姿のままで煮たい。カボチャの甘味が味噌に混ざって、ゴンズイのタンパク質に絡む。ヒゲ面とキスをするように頭をしゃぶれば、なるほどゴンズイは面の皮が旨い。
味噌汁:ゴンズイは、水から煮る。煮立つ寸前に火を弱め、出汁を取るようにしばらく煮てから味噌を溶き入れる。椀に盛ったらネギを散らす。尾ビレの際で、中骨だけを切り落とす
味噌汁では、ゴンズイを半分に切ってもいいだろう。具が欲しければ、やはりカボチャやジャガイモなどがよく合う。だが味噌汁は、ゴンズイだけが基本だ。
蒲焼き:丸のままでも、開いてもいい。ウナギを焼くような甘辛いタレを付けながら、ゆっくりと焼く。タレは醤油と味醂の等分を煮詰める

蒲焼き
味噌煮とは違った、ゴンズイ本来の味が楽しめる。意外や真っ白い身はクセがなく、もう少し身肉があればと、惜しまれるほど上品にして美味。
アドバイス
すべての魚料理に共通する基本は、化学調味料を使わないこと。「出汁入り味噌」などはもってのほかで、魚本来の味が消えてしまう。美味しいと感じても、それはゴンズイの味ではない。ゴンズイ料理は、ゴンズイを味合わなくてはならない。入門にはまず、キスの洗礼を受けることか。
酒のさかな...
地獄の獄卒に、牛頭(ごず)人身があり。鬼神のような悪魚として牛頭の名をもらい、ゴンズイになったと言う。三浦半島の漁師町、佐島ではゴンズリ。三重県ではゴズ、ゴズイオとも。
夜行性で夜釣りの外道としてうるさく掛かるが、曇天ならば磯でも内湾でもおかまいなし。心ない釣り人が釣り尽くそうとして諦めたのか、堤防に残骸を放りっぱなしで帰ってしまうことがある。毒針は魚が死んでも危険であり、乾燥してゴミのようになると間違って踏むこともある。ゴンズイの棘は、よく観察すればわかる。柔らかい皮に包まれているが、針先は目を凝らすほど細く鋭い。そして根本までとなると、けっこう長い。硬くて鋭い、長いとあっては長靴の底を突き抜けるのも容易なことだ。サンダル履きの子供が踏んだらどうだろう、想像しただけで可愛そうじゃないか。病院へ行ったとしても、その夜は痛さで眠れない。
だが、ゴンズイが悪いのではない。世の中にゴンズイを嫌わしめたのは、釣り人である。千葉県の内房では、漁師に限らずゴンズイを好んで食べている。町の魚屋にだって、堂々と並んでいるのだ。しかも毒針が付いたまま……。
本場の食べ方を紹介したい。彼らはゴンズイを1匹や2匹で料理しない。バケツで買ってきて、大鍋で煮るのだ。30匹くらいをバケツに入れて棒でかき混ぜて洗い、カボチャを入れた味噌煮にする。内臓? 取らない。毒針? 取らない! 毒は煮えると消え去るようで、棘が刺さらないように、うまく頭をせせるのである。ゴンズイの一番旨いところは、なんとヒゲが付いた唇なんだそうな。キスをするようにとは、なるほど納得。ゴンズイを煮たとわかると、隣近所はお裾分けを待ちわびるほどだ。
こういう町に、ゴンズイをバカにする人はいない。釣り人が堤防に投げ捨てたら、バカなよそ者として相手にしない。素晴らしい漁師町である。